横浜薬科大学の不適合評価問題
不適合評価という評価が大学基準協会から下された横浜薬科大学ですが、この評価はあまり妥当とは言えません。同時にマイナス評価を受けた3大学と比較し、大学の評価基準がどうあるべきかを考えてみましょう。
こちらでは、大学基準協会によって横浜薬科大学を含む3校の大学に不適合評価が下されたという問題について紹介しています。
【2012年度の大学基準協会による判定】
2012年度には42校の評価が行われ、大阪学院短期大学、ビジネス・ブレークスルー大学大学院、横浜薬科大学の3校が不適合となりました。さらに大阪産業大学がいったんは適合評価となったものの、不適合評価に見直される可能性があります。 それでは、それぞれの不適合理由を見ていきましょう。
- ◎大阪学院短期大学
評価理由:学生の数が定員の30%にも達していない
これは不適合評価が妥当かどうか判断の分かれるところです。たしかに学生数は大学の魅力、存在意義を考える上で重要ですが、あくまでも受験するか、入学するかといった判断が受験生側に委ねられていることを踏まえると、定員割れを理由に“大学として不適格”という評価をするのが妥当かどうか…。
そもそも4年制大学への進学が容易になった今、短大が学生確保に苦しむのは自明の理です。これだけで不適合というのであれば、短期大学というシステムそのものを抜本的に見直したほうが良いかもしれません。
- ◎ビジネス・ブレークスルー大学大学院
評価理由:教員の大半が企業経営者で、専任教員が実質ゼロ
これは不適合評価となっても当然の例ではないでしょうか。専任教員を配置しないというのは、要するに“教育機関としての責務を果たす意志がない”ということです。
専任教員を置くかどうかは大学側の一存に委ねられますから、ハッキリと大学の怠慢といえる要素もあります。このように責任の所在が100%大学側にある場合、反論の余地はないでしょう。
- ◎横浜薬科大学
評価理由:留年率、退学率が高い
これは少し酷な判定ではないでしょうか。2006年度から薬学部が6年制に変わり、学費負担は相当に跳ね上がっています。不況が長く続いたのを踏まえれば、経済的理由で中退に追い込まれる学生が増えるのはやむを得ないところでしょう。
また、留年率について大学基準協会は“本来、薬剤師になれないレベルの学生を入学させており、大きな問題”と主張していますが、そうでしょうか?学力がやや低い学生にもチャンスを与えるかわりに、薬剤師になるだけの実力をつけることができなければ卒業させない。これは極めて正常な判断だと思うのですが…。 むしろ実力不足の学生を簡単に進級させて、運良く薬剤師になってしまうようなことがあれば、薬局の安全性が損なわれてしまいます。
入学時の学力が低くてもチャンスを与える代わりに人並み以上の努力を求めるというのは、教育機関として至極真っ当だと思います。 一般に日本の大学は“出席さえしていればお情けで進級できる”という状態が慢性化していますが、そちらのほうが問題では…?義務教育じゃないのですから、実力が伴わない学生を進級させないのは当然のことだと思うのですが。
- ◎大阪産業大学
評価再検討理由:2009年度のヤラセ受験問題
これは2009年度の大学入試一般受験で、大阪産業大学の付属高校に依頼し、入学するつもりのない成績優秀な高校生に受験を依頼していたというもの。
大阪産業大系列は大学のレベルに対して付属高等学校のレベルが高く、いわゆるエスカレーターで高校から大学へというシステムではありません。系列高校の受験生はもっと偏差値の高い他大学へ行くのが一般的です。 大阪産業大学は入学試験の成績優秀者に対し、学費を減免する制度を持っています。
そこで、大阪産業大学は謝礼を払って系列高校の受験生に受験を促し、成績優秀者が大学に入ってこないよう操作していたわけですね…。 再検討どころか、即刻不適合の評価を出されても文句は言えません。これが再検討で、上述の3校が不適合では、ちょっと可哀想な気がしますね…。こういった明確な悪意が見える問題については、もっと厳しく糾弾されてしかるべきではないでしょうか。
【大学基準協会って何?】
大学基準協会というのは東京都新宿区に本拠を置いている公益財団法人です。2002年の改正学校教育法に基づいて、大学をはじめとする高等教育機関派、文部科学大臣の認証を得た機関から7年周期の評価を受けることが義務づけられていいます。その評価を行うために、この大学基準協会が存在しているわけですね。
【薬科大学はどうあるべきか?】
今後も同じように退学率、留年率をもってマイナス評価がつけられるとしたら、偏差値50未満の薬学部は常に不適合評価のリスクを抱えることになります。もしそうなれば、10校近くの薬科大がまとめて不適合となる可能性もあるでしょう。
しかし、新自由主義の社会においては“多くの人にチャンスを与え、充分な努力をした者をすくい上げる”というのが原則。努力が及ばない人間がきちんとはじかれているなら、卒業率が低くても問題はないと思います。むしろ、逆に入学者をお情けで卒業させる日本の大学システムのほうこそ大きな問題を抱えていると言わざるを得ないでしょう。
文科省認定の評価機関によって引き起こされたこの一件は、時に官僚統治と揶揄される日本の旧態依然とした社会システムがいまだ変わっていないことを示しているような気がします。 “責任の所在が本当に大学にあるのか”“社会に対して何らかの損害を与える可能性があるのか”この2点を軸に、より正しい評価が行われるように変わっていくと良いですね。
当サイトとしては、ビジネス・ブレークスルー大学大学院と大阪産業大学については不適合が妥当、しかし大阪学院短期大学と横浜薬科大学については評価を見直して適合とするか、せめていったん評価を保留して経緯を見守るべきではないかと考えます。